資料を検証する 〜 戦記と戦史叢書 〜
防衛庁防衛研修所(当時)が昭和40年代〜50年代にかけて編纂した「戦史叢書」という全102巻からなる書物がある。日中戦争・太平洋戦 争に おける日本陸海軍についての基本資料としての評価を受けており、公刊戦史とも呼ばれて多くの戦記の参考文献として重宝されている(もちろん当サイトも同様 で あ り、多くを同叢書に拠っている)。
一方で、基本文献としての評価が確立してしまったため、その後に出版された戦史の中には叢書の内容を十分に検証せずに引用している書物も少なくない。ま た、編集・刊行時から30年以上を経ているため、その後の調査や資料公開で新事実が明らかになった例も多い。特にその当時には日本人の現地調査が困難で あった小笠原・沖縄・中国などの戦線ではその傾向が強いと考えられる。
多くの硫黄島戦記の基本文献となっている「中部太平洋陸軍作戦<2>」にも明らかな誤り、もしくは疑問の多い資料・証言と作者が考えている 箇所があるが、それらも「公刊戦史」の記 述ゆえ に多くの書物に引用・孫引きされている。それらのうち影響度などから作者が重要と考えるものを再検討してみることにする。
(誤解のないように断っておくが、「戦史叢書」の価値を否定するものではない。現在でも戦史研究においての必読文献であることに作者も異論はない。)